サンスクリット語をローマナイズするとき,āṛダイアクリティカルマーク*の付いた特殊文字)の入力に困った経験はありませんか?「saMskRtAsaMskRta」のような転写方式のままでは,可読性が悪くレポートやレジュメに向きません。そこでこの記事では,私が普段使っている入力方法をいくつか紹介してみました。

* ダイアクリティカルマークとは,同じ字形の文字でも発音が区別されるときに付けられる記号のことです。


目次

  1. 転写方式に従って入力し,見かけを変える
    1. KH(Kyoto Harvard)方式
    2. TS(Tokyo Standard)方式
    3. その他の転写方式
  2. Unicodeを使う

1. 転写方式に従って入力し,見かけを変える

デーヴァナーガリー文字などからアルファベットに変換するときの規則を,サンスクリット語の転写方式といいます。例えばKH(Kyoto Harvard)と呼ばれる方式では,「長母音のa」を「A」,「短母音のr」を「R」と転写します。KHの他にも,TS(Tokyo Standard)方式・上村方式・相場方式などがあります。

このセクションではKH方式とTS方式をとりあげて,専用のフォントを用いることによって特殊文字を入力する方法を紹介します。

1.1. KH(Kyoto Harvard)方式

KH方式の特徴は,特殊文字を大文字で表現する点です。āは「A」,ṛは「R」,ṭは「T」,ḍは「D」といった具合です。KH方式について詳しくを知りたい方は,下記を参考にしてください。

フォント

KH方式*1に対応した「KH2Sフォント」があります。例えば,このフォントを「saMskRtAsaMskRta」という文字列に用いると,次のように表示されます。

KH2Sフォントの表示サンプル

使い方

必要な作業は以下の通りです。

  1. Windowsでサンスクリット文書を作るというページから「KH2S」フォントをダウンロードする
  2. ダウンロードしたファイルを解凍ツールで開き,フォントをインストールする

    フォントのインストール方法は,「フォントのインストール方法」(WindowsXPの場合)や「新しい「フォント」をインストールする」(XP以前のWindowsの場合)を参照してください。

  3. Wordや一太郎を起動し,「saMskRtAsaMskRta」と入力する
  4. 入力した文章を選択し,フォントを「KH2S」に変更する

以上です。一度試せばすぐに仕組みが分かるはずです。下に簡単な対応表を載せておきます。

KH方式の対応表
KH2Sフォント ā ī ū ṛ ṝ ḷ ṃ ñ ṅ ṭ ḍ ṇ ś ṣ ḥ
通常のフォント A I U R Q L M J G T D N Z or z S H

大文字やイタリック体の特殊文字

大文字の表示には「KH2S_La」フォントを使います。面倒ですが、小文字と大文字でフォントを切り替えてください。書名などでイタリック体を使う場合は,「KH2S_it」フォント,大文字のイタリック体には「KH2S_i_L」を使用します。

KH方式のフォント一覧

1.2. TS(Tokyo Standard)方式

TS方式は,チベット語のローマナイズと共存できるようにしているのが特徴です。チベット語には「za」という字母があります。しかし,KH方式では「z」はśであったため使えませんでした。そこで,TS方式では「C」をśに割り当て,「z」は「z」のまま使用できるように変更しています。

フォント

KH2Sフォントを改良し,TS方式に対応させたフォント(TS Fonts)があります。これは鈴木隆泰さんのページで公開されています。文字の歪みやイタリック体の調整も行われているので,KH方式にこだわらない場合はこちらもお勧めです。

使い方

使い方はKH方式と同じですので,対応表だけ載せておきます。フォントはこちらからダウンロードしてください。

TS方式の対応表
TSフォント ā ī ū ṛ ṝ ḷ ṃ ñ ṅ ṭ ḍ ṇ ś ṣ ḥ ź
通常のフォント A I U R Q L M J G T D N C S H Z

1.3. 他の転写方式について

サンスクリット語の転写方式は他にもたくさんあります。「Windowsでサンスクリット文書を作る」を参考にしてください。


2. Unicode(ユニコード)を使う

ここから先には,一部の環境で表示できない文字が含まれています。一般的な閲覧ソフトで表示できない場合,別の閲覧ソフト(Mozilla Firefoxなど)を使用すると表示できることがあります。

Unicodeとは,多言語の文字を一つの文字コードで取り扱うために作られた文字コードです。ダイアクリティカルマークの付いた文字も含まれており,設定次第で簡単に入力できます。大文字と小文字でフォントを切り替えるといったような作業は必要ありません。

Unicodeに対応したフォント

論文に向くTimes系フォントとして,Gāndhārī Unicodeがあります。イタリック体・ボールド体を含んでおり, Prajñaptiśāstra のような書名が綺麗に表示されます。他には,Times Ext RomanArial Unicode MSなどがあります。

Microsoft Wordで入力

Unicodeのāやśは,入力に手間がかかります。ここでは,Wordのショートカットキーで打てるように変更していきましょう(ショートカットキーとは,「Alt」キーや「Ctrl」キーを押しながら他のキーを押すことによって,連続した操作を簡単なキー操作で実行する手段です)。手順は以下の通り。

インストール手順

  1. Gāndhārī Unicodeフォントをダウンロードする
  2. ダウンロードしたファイルを解凍ツールで開き,フォントをインストールする
  3. ここを右クリックして[対象をファイルに保存…]を選び,テンプレートファイル(rsunicode.dot)を好きな場所に保存する
  4. Wordを起動していない場合,起動する
  5. Wordのメニューから[ツール]→[テンプレートとアドイン…]を開く
  6. [追加]をクリックし,3.で保存したファイルを選び,[OK]をクリックする
  7. [rsunicode.dot]の横のチェックボックスがOnになっているのを確認してから[OK]をクリックし,[テンプレートとアドイン]画面を閉じる
  8. 下の一覧表を見ながらサンスクリットを入力する(「Alt+A」は「Alt」キーを押しながら「A」を押すという意味)

※ Wordを再起動すると,この設定は無効になります。[テンプレートとアドイン…]画面を開き,[rsunicode.dot]の横にチェックを入れるまでショートカットキーは使えません。自動的に読み込ませたい場合は,3.で保存したファイル(rsunicode.dot)を
C:\Program Files\Microsoft Office\OFFICE{Wordのバージョン}\STARTUP
に移動させてください。

特殊文字を入力するショートカットキーの一覧表
- 小文字 ショートカットキー 大文字 ショートカットキー
長母音 a ā Alt+A Ā Alt+Shift+A
長母音 i ī Alt+I Ī Alt+Shift+I
長母音 u ū Alt+U Ū Alt+Shift+U
短母音 r(黒丸) Alt+R Alt+Shift+R
長母音 r(黒丸) Alt+Q Alt+Shift+Q
短母音 l(黒丸) Alt+L Alt+Shift+L
長母音 l(黒丸) Alt+E Alt+Shift+E
短母音 r(白丸) Alt+Ctrl+R Alt+Shift+Ctrl+R
長母音 r(白丸) Alt+Ctrl+Q Alt+Shift+Ctrl+Q
短母音 l(白丸) Alt+Ctrl+L Alt+Ctrl+Shift+L
長母音 l(白丸) Alt+Ctrl+E Alt+Shift+Ctrl+E
喉・鼻音 n Alt+G Alt+Shift+G
口蓋・鼻音 n ñ Alt+J Ñ Alt+Shift+J
反舌・無声音 t Alt+T Alt+Shift+T
反舌・有声音 d Alt+D Alt+Shift+D
反舌・鼻音 n Alt+N Alt+Shift+N
口蓋・歯擦音 s ś Alt+C Ś Alt+Shift+C
反舌・歯擦音 s Alt+S Alt+Shift+S
visarga(visarjanīya) Alt+H Alt+Shift+H
upadhmānīya Alt+F Alt+Shift+F
jihvāmūnīya Alt+X Alt+Shift+X
anusvāra(subdot) Alt+M Alt+Shift+M
anusvāra(superdot) Alt+Ctrl+M Alt+Shift+Ctrl+M
Alt+Ctrl+B Alt+Shift+Ctrl+B
記号
- ショートカットキー
外連声 ̂ Alt+^

※ 表中で背景が灰色の文字はGāndhārī Unicode以外では表示できません。Unicodeの私用領域(外字)に埋め込まれた文字です。

キー配列

上記表の配列は,[中谷:1991]を参考にしています。変更は,Wordのメニュー[挿入]→[記号と特殊文字…]画面から可能です。


Notes

*1 KH (Kyoto-Harvard style)」にあるTokyo KHを基本に,小文字の「z」でも「ś」が出るようにしたKH方式のようです。

参考

[中谷:1991]
中谷英明, 「コンピュータ利用に関するパネル —- ウィーンにおける 第8回サンスクリット会議消息 —-」, 『印度仏教学研究』, Vol. 39-2, pp.230-232(L), 1991.
[山崎:1996]
山崎 守一, 「パーリ文献のコンピュータ解析 フォント、韻律、語彙、詩脚索引」, 『印度学仏教学研究』, Vol. 88(44-2), pp.125-129(L), 1996.
[逢坂:1998]
逢坂 雄美 and 宮尾 正大, 「インターネットとパーリテキストの活用」, 『仏教研究』, Vol. 27, pp.207-217(L), 1998.
[Ousaka:2002]
Yumi Ousaka, Moriichi Yamazaki, Masahiro Miyao “Automatic Analysis of the Canon in Middle Indo-aryan by personal Computer” Philologica Asiatica Monograph Series, Vol. 19, 2002.
Alan Wood’s Unicode Resources
Unicode and Multilingual Support in HTML, Fonts, Web Browsers and Other Applications. see http://www.alanwood.net/unicode/

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